いちごは、古い不動産に手を入れて価値を高める「心築(しんちく)」を軸に、オフィスやホテル、都心の新築レジデンスの売買、J-REITなどの運用、太陽光発電までを手がける東京の会社です。2026年10月14日に中間決算と、50億円の自社株買い、1,400万株の消却が出たので、IR BANKの10年以上の推移と、決算短信、決算説明資料を並べて読んでみました。
先に、数字のカードを置いておきます。
銘柄カード
項目 内容 銘柄 いちご(2337)東証プライム・不動産業 株価 408円(10月16日終値)、時価総額は約1,699億円 配当利回り 約3.8%(予想配当15.5円) 予想PER 約9.0倍(会社予想EPS 45.13円) PBR 約1.39倍(中間期末の1株純資産292.64円)。含み益を加えた時価ベースでは約0.94倍 自己資本比率 25.7%(中間期末) 営業CF 3期連続マイナス(2024年2月期〜2026年2月期)。今期上期も-169億円 予想ROE 約15%(上期の実績15.0%、目標は15%以上)
株価と利回り、PERは10月16日ごろの値で、日々動きます。PERは会社予想のEPSから、PBRは中間期末の1株純資産から私が計算し直した概算で、アプリの表示と少しずれることがあります。時価ベースのPBRは、会社資料の含み益(税引き後561億円)を自己資本に足して計算した、これも概算です。
何の会社?
- 2000年設立、2002年に上場。社名は「一期一会」に由来
- 事業は、心築、ホテル、いちごオーナーズ(都心の新築レジデンスの企画・販売)、アセットマネジメント(上場3投資法人などの運用)、クリーンエネルギー(太陽光・風力64か所、188.2MW)の5つ
- 自分で持つ不動産が3,307億円、発電所が259億円、運用を受託している資産が3,574億円で、合計7,141億円(2026年8月末)
- 今期の事業利益予想340億円のうち、心築が185億円で半分強
収益は、賃料・売電・運用フィーの「ストック収益」と、物件を売った利益の「フロー収益」の2本立てです。
決算を読む:事業利益は増、経常利益は実質減益
上期の売上高は398億円で22.0%減ですが、前年にいちごオーナーズの物件売却が多かった反動です。営業利益は106億円で5.7%減。売却益を加えた事業利益は155億円で2.6%増、中間純利益は84.6億円で1.9%減でした。1株利益(EPS)は、自社株買いで平均株数が6%減った分もあり、4.4%増の21.47円です。
経常利益は89.5億円で1.0%減ですが、中身は少し違います。デリバティブ評価益(金利スワップやキャップの時価)が13.8億円あり、評価損1.5億円を引いても12.3億円のプラスでした。これを除くと経常利益は77.2億円で、前年の86.9億円から約11%の減益です。支払利息が26.8億円と、前年の20.5億円から約30%増えたことが響いています。
事業別の事業利益は、アセットマネジメントが+66%、心築が+38%、いちごオーナーズが+39%。一方、ホテルは-57%、クリーンエネルギーは-17%でした。ホテルは前年に売却益があった反動、クリーンエネルギーは落雷による一時的な停止が理由です。アセットマネジメントは上期だけで17.1億円と、通期予想の12.5億円をすでに超えています。
通期予想は据え置きです。上期の進捗は、事業利益が45.6%、経常利益が60.1%、純利益が47.0%。下期に必要な数字を前年下期と比べると、事業利益は185億円で、前年下期の129億円の約1.4倍(+43%)が必要です。一方、経常利益は59.5億円で、前年下期の80.5億円より約26%低い水準です。売却益を含む指標では強気、経常利益では慎重、というのが私の読みです。前期の経常利益は会社予想の約1.15倍で着地していて、予想は控えめに出る傾向がありそうです。
売却で稼ぐフロー収益は、通期予想239億円に対して上期が100億円。下期に139億円、前年下期(85億円)の約1.6倍が必要です。会社も下期に売却を加速させると説明していて、いちごオーナーズは通期で過去最高益を見込んでいます。
10年で見ると、コロナの谷を越えた
IR BANKの推移を見ると、当期純利益は2016年2月期の129億円から、2019年2月期に154億円まで伸びました。コロナで旅行・ホテル需要が止まった2021年2月期には50億円まで落ちましたが、そこから5年かけて、2026年2月期に166億円と、コロナ前のピークを超えています。EPSは、2019年2月期の31.14円から、2021年2月期の10.48円、2026年2月期の40.11円へ。純利益の回復に加えて、自社株買いで株数が減った分も効いています。
ROEは、会社発表で2021年2月期の5.0%から、2026年2月期の14.6%まで上がりました。目標は15%以上です。ただ、同じ期間に総資産は3,471億円から4,358億円へ約26%増え、有利子負債(コーポレート借入)は1,777億円から2,541億円へ約43%増えた一方、純資産は1,103億円から1,168億円へ約6%しか増えていません。規模を広げた分は、ほとんど借入で賄ってきたことになります。
配当は5期連続の増配予想。ただし「ずっと出してきた会社」ではない
1株配当は、次のように動いてきました。
- 2017年2月期 5円
- 2018年 6円
- 2019年 7円
- 2020年 7円
- 2021年 7円
- 2022年 7円
- 2023年 8円
- 2024年 9円
- 2025年 10.5円
- 2026年 11.5円
- 2027年(予想) 15.5円
2022年2月期の7円から今期予想の15.5円まで、約2.2倍です。会社の資料では2013年2月期が「復配」とされていて、そこから減配はありません。ただ、復配とあるとおり、その前には無配の時期がありました。
会社は、原則として維持か増配で減配しない「累進的配当政策」と、DOE(株主資本配当率)5%以上を掲げています(2026年4月に4%以上から引き上げ)。DOEは、ROE×配当性向に分けられます。今期予想はROE約15%×配当性向34.3%で、約5.1%です。株主資本が今の約1,130億円なら、5%は約56億円。今の株数(自己株式を除く約3.9億株)で割ると、14.4円ほどです。15.5円はその少し上で、利益が多少ぶれても配当を守りやすい設計です。なお、自社株買いで株主資本が減ると、DOE5%を守るのに必要な配当総額も小さくなります。
配当に自社株買いを加えた総還元は、2026年2月期で143億円(配当約45億円+自社株買い約98億円)で、総還元性向は87.9%でした。IR BANKでは、2022年2月期から順に73.9%、86.9%、72.9%、66.7%、87.9%です。今期は、すでに51億円の自社株買いを実施し、新たに50億円(上限、2027年4月末まで)を決めました。自社株買いは10期連続です。1,400万株の消却は、すでにEPSの計算から除かれている自己株式を、帳簿からも消すもので、EPSが上がるのは買い付けるときのほうです。
キャッシュを見ると、営業CFのマイナスは「在庫」
IR BANKのキャッシュフローでは、営業CFは2023年2月期の+2.5億円から、2024年2月期に-85.8億円、2025年2月期に-284億円、2026年2月期に-219億円と、3期連続のマイナスです。今期上期も-169億円でした。主因は、物件を仕入れて販売用不動産が増える分が営業CFに出ることで、上期は販売用不動産が229億円増えています。貸借対照表の販売用不動産は、2023年2月期末の792億円から、今期中間期末の1,985億円まで、約2.5倍です。
会社は、在庫の増減を除き、心築とホテルの売却損益を加味した「エコノミック営業CF」も出しています。2026年2月期は183億円で、純利益166億円の1.1倍。今期上期は105億円で、純利益84.6億円の1.2倍です。稼ぐ力そのものは、純利益を上回っています。
穴埋めは、固定資産の売却(上期37億円)、子会社株式の売却(81億円)、そして借入です。上期は長期借入で407億円を調達し、308億円を返済しました。現預金は、2024年2月期末の461億円から、今期中間期末の392億円まで減っています。
金利上昇に強いか
加重平均金利は、2022年2月期末の0.99%から、今期中間期末の1.69%へ上がりました。借入期間は平均8.5年、残りは5.8年で、金利の約51%はスワップやキャップで固定化済みです。リーマンショックの頃と比べると、加重平均借入期間は2.8年から8.9年(2026年2月期末)、3年以内に返済期限が来る借入の割合は93%から24%に下がり、ストック収益固定費カバー率は75%から195%に上がっています。
それでも、利息の負担は増えています。上期の支払利息は26.8億円で、年換算は約54億円です。変動の部分を、借入金2,699億円の約49%(約1,320億円)とすると、金利が1%上がれば年約13億円で、今期の経常利益予想149億円の約9%にあたります。これは私の概算で、心築によるNOI向上や賃料改定で一部は吸収できます。1年以内に返済期限が来る借入は約398億円で、現預金392億円とほぼ同じ規模ですが、うち152億円はノンリコースローン(対象物件の収益や売却で返す借入)で、全体の長期比率は約90%を保っています。
もう一つは、不動産そのものの値段です。心築・ホテルの保有不動産は、簿価2,167億円に対して直近の鑑定評価額が2,927億円で、含み益は760億円あります。簿価に対する鑑定NOIの利回りは6.0%、評価額に対しては約4.4%です。この利回りが0.5ポイント上がると、評価額は約1割下がり、含み益は約4割減る、という単純計算になります。金利が上がると、借りるコストだけでなく、買い手が求める利回りも上がるので、売却価格にも効いてきます。
景気敏感か、ディフェンシブか
私は「金利と不動産市況に左右される、景気敏感寄り」だと見ています。
景気に左右される面は、フロー収益(売却益)の割合が高いことです。今期予想はストック収益238億円、フロー収益239億円で、ストック比率は約5割まで下がります(目標は60%以上)。ホテルは、大阪・京都の万博需要の反動でRevPARが12%下がりました。コロナ期には、純利益が50億円まで落ちています。
守りの面は、ストック収益125億円が固定費64億円の約2倍あることです。保有不動産は、オフィス28%、ホテル28%、レジデンス27%、商業12%などに分かれ、地域も東京53%、大阪13%、福岡10%と分散しています。太陽光は固定価格買取制度(FIT)で収入が決まっていて、運用資産3,574億円からの運用フィーもあります。
魅力と懸念を整理すると
魅力として挙げたいのは、次の3点です。
- 純利益が、2026年2月期に166億円とコロナ前のピーク(154億円)を超え、ROEは約15%まで来た
- 5期連続の増配予想(15.5円)と、10期連続の自社株買い。DOE5%以上と「減配しない」方針がある
- ストック収益が固定費の約2倍あり、借入の長期化(リーマン時の2.8年から8.9年)と含み益819億円の余裕がある
懸念は次の4点です。
- 借入が増え続けている。コーポレート借入は2023年2月期末の1,677億円から2,699億円へ約6割増え、自己資本比率は30.4%から25.7%へ下がった
- 営業CFのマイナスが続き、在庫(販売用不動産)は1,985億円。売れなければ資金が固まる
- 利益が下期に偏っている。事業利益は前年下期の約1.4倍が必要で、経常利益はデリバティブ益12億円に支えられている
- 金利が上がると、利息負担が増えるだけでなく、不動産の評価額と売却益も縮む可能性がある
まとめ:下期にどれだけ売れるか
いちごは、古い不動産を直して、売って回収するところまでが一巡です。販売用不動産は1,985億円まで積み上がりました。通期予想どおり下期に売却が進めば、利回り6%と金利1.7%の差から、利益と3.8%の配当が生まれます。売却が遅れると、在庫を抱えたまま金利コストだけが先に効いてきます。いちごの通信簿は、下期にどれだけ売れるかと、借入が増えるペースが落ち着くかだと思います。
メモ(次の決算 第3四半期 2027年1月ごろ)
- フロー収益の進み(通期239億円に対して上期100億円)と、事業利益の通期予想の修正の有無
- 販売用不動産(1,985億円)と営業CFの動き
- コーポレート借入(2,699億円)、加重平均金利(1.69%)、自己資本比率(25.7%)
- 自社株買い50億円の進み方と、DOE5%以上の維持
※この記事は、公表資料と公開データをもとにした個人の考察です。株価、PER、PBRなどの数字は概算で、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資判断はご自身でお願いします。
出典
- いちご株式会社「2027年2月期 第2四半期(中間期)決算短信」「決算説明資料」「自己株式取得に係る事項の決定および自己株式消却に関するお知らせ」(2026年10月14日)
- IR BANK(配当・キャッシュフロー・貸借対照表・損益の推移)
- 株価アプリ(2026年10月16日終値)、株予報(前期の会社予想に対する着地率)
