モリトは、ホックやハトメなどのアパレル付属品から、自動車の内装部品、ヘルスケア商品までを手がける大阪の会社です。2026年10月14日に第3四半期決算と通期予想の上方修正が出たので、IR BANKの10年以上の推移と、決算短信、7月の中期経営計画「ACTION 1000」を並べて読んでみました。
先に、数字のカードを置いておきます。
銘柄カード
項目 内容 銘柄 モリト(9837)東証プライム・卸売業・小型株 株価 約1,845円(10月14日時点) 配当利回り 約3.9%(予想配当72円) 予想PER 約15.2倍(会社予想EPS 121.38円) PBR 約1.13倍(第3四半期末の純資産から計算) 自己資本比率 71.8% 営業CF 黒字が続いている(表で確認できる2011年11月期以降、15期連続) 予想ROE 7.5%前後(中計の目標は2031年に12%)
株価と利回り、PERは10月14日ごろの値で、日々動きます。PERとPBRは、会社予想のEPSと第3四半期末の純資産から私が計算し直した概算です。
何の会社?
- 1908年の創業以来、黒字を続けているニッチ商社兼メーカー
- 事業はアパレル関連、プロダクト関連、輸送関連の3つ。今期9か月の売上493億円のうち、アパレル関連が約297億円で約6割
- ここに、BtoC(Ms.ID)、厨房機器などの空間環境サービス、アクションスポーツを加えた「グロース事業」を、2027年11月期から別枠で管理する
決算を読む:上方修正なのに、第4四半期は慎重
通期の売上高予想は630億円から660億円に上がりました。一方、営業利益は35億円から36億円と小幅です。営業利益率は5.6%から約5.5%へ、わずかに下がっています。
第3四半期までの営業利益は29.2億円で、通期予想の約8割を消化済みです。残る第4四半期は、売上が約167億円、営業利益が約6.8億円、利益率は約4.1%の計算になります。前年の第4四半期は約9.6億円(約5.9%)でしたから、会社は前年より低いペースを見込んでいることになります。中東情勢による調達コスト増を織り込んだ、慎重な数字だと読みました。
純利益が21.6%減なのは、前年にミツボシコーポレーションの負ののれん発生益が約11億円あった反動です。営業利益は22.7%増、経常利益も17.7%増なので、本業は伸びています。
10年で見ると、売上は「買って」跳ねた
IR BANKの推移を見ると、売上高は2022年から2024年まで3年連続で485億円でした。それが2025年に569億円、今期は660億円の予想です。きっかけは、Ms.ID、ミツボシコーポレーション、久永製作所の連結です。成長の多くは、買ってきたものだと言えます。
利益率の動きも面白いところです。原価率は、2012年の74.2%から2025年の69.4%まで下がり、粗利率は約25.8%から約30.6%に上がりました。ところが販管費率は、21.4%から24.7%に上がっています。粗利の改善を、販管費の増加がかなり食っている形です。それでも営業利益率は、2020年の2.1%から、2024年の5.9%、2025年の5.9%まで来ました。中計は、これを売上1,000億円、営業利益60億円(6%以上)まで持っていく計画です。
1,000億円には年平均で約8.7%、営業利益60億円には年約11%の成長が必要です。
配当は5期連続の増配。ただし「減配なし」の会社ではない
1株配当は次のように動いてきました。
- 2017年11月期 28円
- 2018年 25円
- 2019年 26円
- 2020年 18円
- 2021年 26円
- 2022年 32円
- 2023年 55円
- 2024年 63円
- 2025年 70円
- 2026年(予想) 72円
2021年の26円から今期の72円まで、約2.8倍です。ただ、2018年とコロナの2020年には減配があります。2020年は利益が落ちたため、配当性向が104.8%まで跳ねました。「増配が続いている会社」ではあっても、「減配しない会社」ではありません。
ここで注目したいのが、総還元性向です。2023年が87.4%、2024年が94.1%、2025年が99%。2025年の総還元額は28.5億円(配当約17.9億円と自社株買い約10.6億円)で、同じ年の営業キャッシュフロー29.9億円とほぼ同じ額です。利益の、ほぼすべてを株主に返している会社だと言えます。
DOE6%は「ROE12%の約束」
中計では、DOE(連結自己資本配当率)の基準を5.0%、2031年11月期の目標を6.0%としています。DOEは、ROE×配当性向に分解できます。今期予想は、ROE約7.5%×配当性向61.4%で約4.6%。2031年は、ROE12%×配当性向50%で6%です。
つまり6%は、ROE12%が実現した場合の姿です。仮にROEが9%にとどまっても6%を守るなら、配当性向は約67%まで上げる必要があります。業績が伸び悩んでも配当を削りにくい設計で、株主には安心材料ですが、会社にとっては縛りでもあります。
私の概算では、2031年の自己資本は総資産700億円×自己資本比率約60%で約420億円。6%なら配当総額は約25億円で、今の株数(自己株式を除く約2,480万株)で割ると1株100円前後です。今期予想の約1.4倍にあたります。
キャッシュを見ると、2025年が転機だった
IR BANKのキャッシュフローを見ると、2023年と2024年は営業CFが44億円と46億円、フリーキャッシュフローも45億円と53億円のプラスでした。ところが2025年は、営業CFが29.9億円に下がり、投資CFがM&Aなどで50.2億円の流出になって、フリーキャッシュフローは20.2億円のマイナスです。現金等は、155億円から94億円に減りました。
ここに、先ほどのほぼ100%の還元が重なっています。2025年は、稼いだ分は返し、買収の分は手元資金と借入で賄った形です。有利子負債は、2024年の11.9億円から2025年の26.9億円に増えました。
過去にも、似た動きがあります。有利子負債は、2014年に約62.5億円、2018年に約56.2億円まで増え、その後は返済して、2024年には3億円台まで減らしました。借りて、返す。その繰り返しです。ただ、中計が描く2031年の約150億円は、過去のピークの約2.4倍です。自己資本比率は71.8%から約60%に下がる前提です。
金利上昇に強いか
第3四半期末の有利子負債は約27億円で、現預金は約101億円あります。実質は無借金に近く、支払利息は9か月で約0.36億円です。金利が1%上がっても、増える利息は年0.3億円前後で、営業利益の1%未満でしょう。
ただ、有利子負債が150億円になると、同じ1%でも年1.5億円で、目標の営業利益60億円の約2.5%です。それより気になるのは、M&Aの基準に「ROIC>WACC(6〜8.5%)」があることです。金利が上がるとWACCも上がり、買える案件のハードルが上がります。影響は、利息よりもM&Aのほうに先に出てきそうです。
為替も見ておきたい点です。今期はドル156.85円、ユーロ182.78円の円安が追い風で、為替換算調整勘定だけで純資産が約11億円増えました。海外売上は約27%あるので、円高に振れる局面では、利息よりこちらのほうが効くと思います。
景気敏感か、ディフェンシブか
私は「景気敏感寄りの中間」だと見ています。
景気に左右される面は、売上の約6割を占めるアパレル関連、自動車メーカーの生産に左右される輸送関連、そして海外売上が約27%あって米国の関税や為替の影響を受けることです。2020年には営業利益が8.6億円まで落ち込みました。
守りの面は、1908年の創業以来の黒字、ニッチなパーツで価格競争に巻き込まれにくいこと、自己資本比率の高さ、そして今期の増収を支えたヘルスケア商品や厨房機器サービスのように、流行に左右されにくい事業の存在です。中計でグロース事業を230億円まで育てるのは、景気に左右されにくい柱を足していく動きとも読めます。
魅力と懸念を整理すると
魅力として挙げたいのは、次の3点です。
- 営業利益が、2019年の17.3億円から2025年の33.3億円まで、ほぼ倍になった
- 実質無借金に近い財務と、5期連続の増配
- 売上1,000億円、DOE6%という、数字で見える約束がある
懸念は次の4点です。
- 成長がM&A頼みで、有利子負債が約27億円から約150億円へ増える計画
- 粗利率は改善しているが、販管費率が上がり続けている
- 総還元性向がほぼ100%で、2025年はフリーキャッシュフローがマイナス
- 減配の履歴があり、景気や自動車、為替の影響を受ける
まとめ:ホックの「抜き跡」
ACTION 1000のロゴは、ホックを打ち抜いたあとに残る板材の「抜き跡」がモチーフだそうです。この比喩を借りるなら、モリトの課題は「打ち抜く数を増やす」ことより、「打ち抜いたあとの板材(利益)を細らせない」ことだと思います。買って伸ばした規模を、次は自力で利益率に変えられるか。利回り3.9%の裏には、利益をほぼ全部返しながら、同時に買って伸ばす、という二刀流があります。その二刀流が、借入を増やしても続けられるのかを見ていきたいと思います。
メモ(次の本決算 2027年1月)
- 第4四半期の営業利益率が、会社予想の約4.1%を上回るか
- 久永製作所の取得原価配分(今は暫定)がどう確定するか
- 中計初年度の配当方針、自社株買い、有利子負債の動き
- 販管費率の推移
※この記事は、公表資料と公開データをもとにした個人の考察です。株価、PER、PBRなどの数字は概算で、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資判断はご自身でお願いします。
出典
- モリト株式会社「2026年11月期 第3四半期決算短信」「業績予想修正のお知らせ」(2026年10月14日)
- モリト株式会社「第9次中期経営計画『ACTION 1000』」資料(2026年7月14日)
- IR BANK(配当・キャッシュフロー・貸借対照表・損益の推移)
- 株探(2026年10月14日時点の株価・利回り)
